辞任する場合


 委任頂いた仕事は、最後まで、完成させたいと強く思います。
 しかし、次のような場合は、辞任させていただかざるを得ないことがあります。

1 矛盾した行動を望まれた場合
 いくらいくら払って終了させる、
 何々を引き渡して終了させる、
等の和解案を交渉することがあります。
訴訟外での交渉では、合意が成立しない場合、提案を途中で撤回することは、
原則的には自由です。

しかし、当方が代理人として交渉する場合に、特に理由もなく、
相手方に対してした提案を撤回されては、
当方の信用が維持できません。
特に、相手方が合意にしたがって、一部を履行した後に、撤回を要望された場合には、
辞任せざる得ない理由が特に強くなります。

代理人のハシゴを外すようなことは、して欲しくありません。

2 あり得ない、合理的ではない主張を要望された場合
 医療過誤事件等で、診療録上の記載や客観的証拠からは推定できないような主張を
要望される場合にも、あり得ないこと、合理的ではないことは主張できませんから、
辞任せざるを得なくなります。

 ひとは必ず死亡するので、死亡したという事実だけでは、不法行為の問題は生じません。
医療や介護関係の事件では、だんだんに痩せて行って亡くなる、手術後望まない経過をたどる、
ということがあってもそれだけでは、問題にはなりません。
 高齢・認知症の方がお亡くなりになる前、低栄養、体重減少が生じることが一般的ですが、
それだけを理由に高齢者虐待を主張するということはできません。

 交通事故が疼痛の発生原因であるとはいえない、と協力医から意見が出た場合に、
他に意見を述べてくれる医師がいないにもかかわらず、
疼痛全部についての加害者の責任の存在を前提とする訴訟提起を要望されても、困ります。
なお、訴訟の進行は予測できず、相手方が争わないことも全くないわけではない
という訴訟上の戦略ではなく、結果を求められる場合のことです。

3 訴訟上の主張する意味が乏しい主張・立証に、多大な準備を求められる場合
 離婚、遺産分割等の家事事件でも、大部分は、別居しているか、要介護度はいくつだったか、
所得金額、財産額、というような客観的外形的な事実が、主な判断の基礎とされます。

 ただし、場合によっては、外形的な証拠に現れにくいDV、モラハラ、不適切な介護等
という、生活の実態の一部の立証が必要になることもあります。
こうした場合、陳述書、細かい記録の引用で主張・立証することになり、
ある程度の時間と手間が必要になります。

 しかし、医療記録、110番の記録、ケア記録等に明確な記載がない場合の生活実態に
関する主張は、基本的に認められる可能性は、低いものです。

 にもかかわらず、限度を超えた膨大な作業を求められた場合、
当方としては、無意味な作業で大事なことができなくなるものとして、
着手金の金額等にもよりますが、2の場合と同様、辞任せざるを得なくなります。

なお、裁判官の多くも、長すぎる文書では主張が理解しづらくなると、
繰り返し述べています。

4 弁護士費用のお支払いをいただけない場合
 民事、医療過誤等の場合は、まず生じない問題ですが、
債務整理案件は、お金がないのが前提で受任しているため、
辞任するかしないかの判断には、常に悩みます。
 というのは、自己破産申立てが遅れた場合で、財産が散逸したときに、申立代理人に、
不法行為責任が生じるとする裁判例があるからなのです。
 このため、自己破産の費用が積立られない場合には、収支状況、財産の処分状況を
毎月報告いただくことが、弁護士費用等のお支払いをお待ちする条件に
ならざるを得ないと思います。