医療過誤相談


歯科医師の資格を持っているため、
医療過誤、特に歯科に関する相談を
比較的多く、月1件程度は受けています。
しかしながら、医療過誤の相談は、
相談者の期待にそう答えを述べることが
できることが多くありません。
医科の生死に関わる事件に関する相談の場合、
悪い結果が生じたから、というだけでは、
医療過誤とは言えません。
相手方医療機関に何らかの落ち度(過失)があって、
その落ち度がなければ、異なる結果になった、
といえる場合でなくは、医療過誤とは言えません。

医科の事件の場合、どんなところに落ち度、過失が
あるかという点が、一見では分からないことが多くあります。
このため、調査してみないと、医療過誤と言えるか分かりません
何より、その落ち度がなかったら違う結果に
なったということ、因果関係の立証が大変です。
手術ミス、多量投薬などの良くない医療行為が
原因の場合は、比較的、因果関係の立証が可能です。
しかし、なすべき行為をしなかった事件、
癌に気がついて専門医療機関を紹介するべきだった、
MRSA感染に気づいて早期にバンコマイシンを投与するべきだった、
等の事件では、少し早く処置をしても、
結果は変わらなかった、
と判断されてしまう可能性が多くあります。
そして、その判断は、過去にさかのぼって実験することができないため、
科学的な意味では根拠のない判断という外ありません。
歯科分野、特にインプラントと歯科矯正の分野では、
何をするべきだったのか、
が必ずしも明確ではないことが問題です。
つまり、インプラントも成人に対する歯科矯正も、
ガイドラインがなく、標準的な治療方法が
文献上明確になっていないことが問題です。
例えば、現在の多くの歯科医師は、
どの部位でも、インプラント埋入の術前に、
歯科用又は医科用のCT検査をすると思います。
しかし、インプラント植立方向を間違えて、
インプラント体が骨から飛び出てしまっても、
術前にCT検査をしなかったからだ、
と言い切れるかには、疑問の余地があります。
また、インプラントには材料の種類が多く、
術式も
一回法、二回法、即時荷重等
様々は方法があるにもかかわらず、
どの方法が有効なのかについての
信頼に足る証拠はほとんどありません。
成人の歯科矯正では、一般的な診断治療方法さえ
文献によって異なるとさえ言えそうです。
もっとも、歯科の場合、多くは、美容整形同様、
治療するかしないかは、生死に関わることはありません。
また、歯が抜けたのなら、
インプラント、ブリッジ、入れ歯、何もしない、
様々な手段があり、患者は、その利害得失について、
事前に詳細な情報提供を受ける、つまり説明を受ける
権利がある
のではないかと思います。
情報提供を受けなくては、患者は何が自分にとって
良い治療方法か判断できないからです。
インプイラントの治療期間、
失敗(早期離脱)の可能性(割合)、
インプラントが使用可能な期間
(歯肉が下がってネジが見えてしますまでの予想期間等)、
噛み心地(天然歯との違い)
合併症の可能性(神経麻痺、感染症等)
等について、情報提供があるべきではないかと思います。
歯科に関する事前の説明は、
患者が治療方法を自己決定するという観点から見て、
現状では、十分な情報提供、すなわち、説明が行われている
とは思えません。
説明文書、同意文書さえ作成されていないことがほとんどでは
ないかとさえ思ってしまいます。
ただし、私のところに相談がある事件は、
良くない事例ばかりですので、
標準的な歯科医師は、かなりの説明、文書作成をしている
のかもしれません。
説明不十分という点は、患者の側からは、
ポイントになる場合があると思います。